スタッフblog「季の風」
生ける言葉、埋ける言葉
2020-10-28
先日、本を読んでいたら「火をいける」という表現が出てきた。
「いける」? 「生ける」だろうか。
「火を生ける」――火を起こすことを生け花にたとえた表現だろうか、と考えてみた。しかし、その後で、登場人物がすぐに寝てしまったので、どうも火を起こしたわけではないらしい。
こうなったら……教えてインターネット先生!
というわけで、検索。
「火を埋ける」――炭火を灰の中に埋める。
なんということだ。炭火を消すということか。想像と真逆ではないか。
念のため、手持ちの辞書で確認。
「埋ける」――火を消さないように灰に埋める。
え! 消さないの!?
インターネット先生、どうなってるの。
というわけで、再度検索。
炭に灰をかけて、火を長持ちさせることができる、とある。
なるほど。空気との接触を減らして、一気に燃え尽きるのを防ぐということか。
さらに、夜に灰に埋めた炭を翌日に種火として使う、とも書いてあった。
あの登場人物の行動の理由がここではっきりとわかった。
「埋ける」――日頃から炭を使う人なら日常語なのかもしれない。でも、数年に1回バーベキューで炭を使うかどうか、という程度の私にはなじみのない言葉だ。
そういえば、同じようなことが、昔あった。
地元の田園地帯から都会の高校に通っていた頃、――なぜそういう話になったのかは覚えていないが――「足がいぼって大変だった」というような話をした。
すると、クラスメイトはぽかんとして「いぼるって何?」と聞いてきたのだ。
え、「いぼる」は、「いぼる」だよ。
確かに方言だが、同じ県内だし、通じないわけないと思っていた。
なぜ、通じないのだろう。
「だから、『いぼる』っていうのは、田んぼとかに足がはまって抜けないことだよ」
なぜか爆笑が起こった。
「俺、いぼったことないもん」
えええぇぇぇ!!!
都会で生まれ育ったクラスメイトたちはいぼったことがないから、「いぼる」という言葉も知らなかったのだ!
ショック……。
そのあと、教室では「いぼる」が、ちょっとしたブームになった。
「いぼらないように帰れよ」
「今日は雨だからグラウンドでいぼるかもな」
まあ、すぐにブームは去ったのだが。
私たちのボキャブラリーは、生活様式に依存しているということだろう。
新しく生まれる言葉もある。
電子レンジが登場して「チンする」という言葉が生まれたはずだ。
一過性の言葉もあるだろうが、定着する言葉もある。
感情の高ぶりを表す「萌える」やSNSへの投稿を表す「つぶやく」などは定着した感がある。
一方で、「写メ」とか「KY」は、最近聞かなくなったような気がする。
使う言葉が移り変わっていくことは、ある程度仕方ないにしても、昔使っていた言葉を思い出すのも、まあ、たまにはチョベリグって感じだ。
僕たちがイーハトーブと呼んでいた中村くんちの物置の中
瓜角