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スタッフblog「季の風」

革と傷痕

2023-05-10
学生時代、誕生日祝いに友人から革の財布をいただいたことがきっかけで、革製品を少しずつ買い集めている。
しっとりとした手触り、独特の芳香など、心惹かれる要素は多々あるのだが、私にとって革製品の一番の魅力は、「育てる」ことができる点である。
 
天然皮革には、人の手による手入れが必要だ。
革は乾燥すると傷みやすくなり、ひび割れを起こすこともあるらしい。それを避けるために、クリームを塗って油分や水分を補ってやる。人間の肌と同じだ。
手入れをしながら使い込んでいくと、徐々に見た目や質感が変化してくる。革が柔らかくなって手になじんだり、色に深みが出てきたり、表面に艶が出てきたり……という変化だ。この変化を、エイジングや経年変化と呼び、長年使い続けることで経年変化を楽しむことを「育てる」という。
 
革製品を使っていると、どこかにぶつけたり、自分の爪で引っ掻いたりして、うっかり傷をつけてしまうことがある。
自分の不注意で目立つ傷がついてしまうと、非常に落ち込む。
だが、革が育っていくと、あんなに目立っていた傷が不思議と目立たなくなる。傷痕が消えたわけではない。使うごとに傷は増えていくのだが、それも革の表情として馴染んでいくのだ。
 
調べてみると、それが革の特性であるらしい。使い始めは傷つきやすいが、経年変化を重ねていくごとに、傷痕が目立たなくなったり、自然に修復されたり、傷がつきにくくなったりという変化があるようだ。
そのような革に育てるには、手入れをしながら、長い時間をかけて使い込んでいくしかない。近道はないのである。革は正直な素材だ。
 
人にも、同じようなことが言えるのではないかと思う。
失敗をしたり、辛いことがあったりした直後は、後悔や悲しみ、怒りという傷がじくじくと痛み、その傷にばかり目がいってしまう。傷は日々増え続け、容易には消えない。しかし、時間が経つごとに、その傷痕が自分の一部となる。そうして、よりしなやかで強く、艶のある人物が育っていくのではないだろうか。
そうなるためには、ただ傷痕を放置していてはいけない。勉強や経験を積んだり、思考を深めたりすることで、自分を育てていくための手入れをこまめに続けていく必要があるのだろう。
 
なまなましい傷が目立つ今の私が、「育った」人物になれるのはいつのことだろうか。もしかしたら、そんな日は来ないかもしれない。しかし、そういう人物になりたいという憧れは捨てずにいたい。そして、できることならば、革の変化を楽しむように、その過程を楽しみたいものである。
豊石
株式会社あいげん社
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