スタッフblog「季の風」
なぜ勉強するのか
2017-05-25
教育現場にいたころ、「なぜ勉強するの?」「こんなこと勉強して将来何の役にたつの?」とよく聞かれた。勉強の難易度があがり、苦手な教科がはっきりしやすい中学生によく聞かれたと思う。
このことに関して、ある中学3年生の男子生徒とのやりとりを今でも覚えている。彼の担当講師になってしばらくたったころ、こう聞かれた。「俺は将来美容師になりたい。美容師になるのに今やっている勉強が何の役にたつのか分からない。なんでこんなことを勉強しなければいけないのか。」そのとき勉強していたのは、彼が苦手としていた数学の一次関数だった。確かに一見美容師とは関係なさそうな分野である。苦手な分野に対して愚痴をもらすように聞いてきた質問だったのだが、だからこそ簡単に答えるわけにはいかなかった。少し時間をもらって次の授業のときに答えることにした。
次の授業のとき、彼に自分なりに考えた二つの答えを話した。一つ目は「お客様の趣味に合わせたいろいろな話ができる美容師になるため」ということ。お客様にはいろいろな人がいて、好みもそれぞれ違う。その人に合わせた話ができるように、勉強して知識を広げておくことは大切だ、と話した。二つ目は「将来の選択肢を狭めないため」ということ。これからひょっとしたらなりたい職業が別に出てくるかもしれない。そのときに今勉強している知識が必要になることだってあるかもしれないから、将来の自分のために勉強しよう、と話した。
もっといろいろと細かく話していたのだが、今思えば一つ目はやや屁理屈じみて、二つ目はややネガティブな回答だったような気がする。それでもそのときの彼は納得した様子で勉強し始めた。彼にはこの回答でよかったらしい。
子どもと接しているときよく感じたのが、子どもは自分の質問に、丁寧に真剣に答えてくれることを、大人が思っている以上に大切にとらえている、ということだった。「なぜ勉強しなければいけないのか」という問いに対して、子どもが十人いれば求められる回答は十通りあり、大人が十人いれば出てくる回答も十通りある。その子どもの個性や置かれた状況に応じて、時には自分の体験も交えながら、誠意をもって答えてあげるのが大人の仕事の一つであると思う。最近はこの質問をされる機会はめっきりなくなったのだが、大人として自分の言葉で答えてあげられるように考え続けたいテーマである。
R