心に残る名文
第28回 いろは和歌【わ】 参議篁「わたの原」『古今和歌集』より
2022-03-07
いろは和歌シリーズ、今回は「わ」で始まる一首を紹介します。
わたの原 八十島 かけて漕ぎ出ぬと人には告げよ 海士 の釣り舟
(岩波書店「古今和歌集」)
(私は)海原に多くの島を目指して漕ぎ出していったと、人に告げておくれ、漁師の釣り船よ。
小倉百人一首に収められている一首。
「参議篁」は官位による呼び名で、作者の名は小野篁(802年―853年)。
漢詩や書に優れ、政務にも長けた人物でした。
昼は朝廷で、夜は冥府の 閻魔 大王のもとで仕事をしていたという伝説もあり、『 今昔物語集 』などの説話集にもその名が登場します。
この歌は、作者が天皇の怒りにふれ、流罪にあった折に都の親しい人を思って詠んだものとされます。
広い海にぽつんと浮かぶ舟という景色から、作者の孤独と強い念とが伝わってくるようです。
福井