心に残る名文
第24回 いろは和歌【ぬ】 大伴百代「ぬばたまの」『万葉集』より
2019-04-08
新元号が「令和」と発表されましたね。出典は『万葉集』だそうです。
いろは和歌シリーズ、今回はその『万葉集』から、「ぬ」で始まる一首を紹介します。
大宰大監大伴宿禰百代の梅の歌一首
ぬばたまのその夜の梅をた忘れて折らず来にけり思ひしものを
(新編日本古典文学全集6 万葉集』小学館)
あの夜に見た梅を、うっかり忘れて折らずに来てしまいました。(この梅をと)思っていたのに。
作者である大伴百代は、天平(729〜749年)の頃に大宰府の役人だったといわれています。
「ぬばたま(射干玉)」はヒオウギという草の実のことですが、この実が真っ黒であることから、「ぬばたまの」という「黒」「夜」などにかかる枕詞として用いられるようになりました。
この歌は、『万葉集』巻第三に「譬喩歌」としてまとめられた中の一首。恋心を抱いていた相手を、梅にたとえているわけです。歌を詠む場にいた美しい女性を、戯れに梅にたとえたのだともいわれています。
大伴百代の歌は、その序が新元号の典拠となった「梅花の歌三十二首并せて序」(巻第五)にも含まれています。
そちらでは梅をどんなふうに詠んでいるのでしょう。ぜひ『万葉集』を手に取って探してみてください。
福井