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スタッフblog「季の風」

しちがつの備忘録

2016-07-20
「七月(しちがつ)」を「ヒチガツ」だと思っていたのはいつまでだったかと考えてみると、案外思い出せない。
最近まで勘違いしていたような気もするし、「七」という漢字を習った小学一年のときには既に知っていたような気もする。
「みあげ」とタイプして、「土産」と変換されないことに腹を立て、「このポンコツPC!」と憤っていたのは、今思い出しても恥ずかしい。

小中学生向けの教材を編集・校正していると、ときどき思いも寄らないことを忘れていたことに気づく。「八つ」か「八っつ」か。「損なう」か「損う」か。
――挙げればきりがないが、確実に学校で習ったはずのことを、私たちは往々にして忘れている。
確かに、「しちがつ」か「ひちがつ」かわからなくても「7月」とタイプしてしまえば悩む必要はないし、「損なう」でも「損う」でも、私たちは読むことができる。
しかし、底抜けに正しかった頃の景色を忘れることは寂しいことだ。
だから、これは備忘録だ。忘れても差し障りはないけれど、忘れると寂しいことを取っておくための場所。
そういうスペースをどこかに作ろうと思った。
そこにしまわれるのは、国語(日本語)のことであるかもしれないし、会社での一場面、日々の雑感でもあることだろう。
教材の編集・校正という私たちの仕事は、忘却に直面する仕事だ。忘れていたということを思い出してしまう。
だから、せっかく思い出したことをもう一度ここに記していこうと思う。ふるさとに沈む夕日の写真を丁寧に撮り直すように。

――こんなことを書くと、いかにも後ろ向きで陰気なことを始めるものだと呆れられるかもしれない。しかし、そもそも過去の助動詞「けり」で詠嘆し、「See you!」「再見!」「Au revoir!」ではなく 「さようなら」とわざわざ昔を振り返りながら別れてきた私たちには、こういう備忘録を素敵だと思う素養が備わっていると思うのだが、いかがだろうか。
友達と海で遊んだ帰り、「ベタベタ」と「ヒリヒリ」を携えて、サドルがぬれないようにお尻を浮かせて自転車を漕いだ――あの日の夕日は、 忘れるにはあまりに美しすぎないだろうか。
そうめんを食べたら腕の皮をむく 脱皮みたいでかっこよかった
瓜角
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