教育図書の編集なら,《株式会社あいげん社》におまかせください。

qrcode.png
http://www.aigen-sha.co.jp/
モバイルサイトにアクセス!
株式会社あいげん社
〒101-0062
東京都千代田区神田駿河台3-3-5
小林ビル3F
TEL.03-5280-7197
FAX.03-5280-6020
008421
 

スタッフblog「季の風」

 
フォーム
 
しっくりくる言葉
2016-09-20

子供の頃の一時期、私は本を読めなかった。

児童書を読むにはひねくれていたし、

一般向けの書籍は内容以前の問題でつまずいてしまった。

「生れる」とか「聞える」とか、

あるいは「訊ねる」「歎く」、「奇蹟」「蒐集」

――そのときの私から読書の楽しみを奪っていたものは、

こういう学校で習わない表記だった。

学校で習ったことが唯一無二の正しさだった私は、

見慣れない送り仮名や漢字がひたすらむずがゆかった。

この頃の読書体験は、だから、驚くほど貧弱だ。

 

そんなのんきな懊悩を抱えて数年たった頃、

国語の先生だったか友達だったかに、

慣れ親しんだ「現われる」という送り仮名が“誤り”だと知らされた。

重大な過ちにショックを受けつつも、

私は、「現われる」と書くほうが

「現れる」と書くよりもしっくりくるのに、と思った。

“しっくりくる”。

ふと思い至ったこの言葉に、私は今までの屈託がすっと消えていく気がした。

表記は価値観であり、美的感覚だということを突然了解したのだ。

“誤り”だと思っていたから読めなかった。

その人の「歎」の形をした「なげき」を、その感覚のまま味わえばよいのだ。

「きこえる」ものはその筆者にとって三文字でしかありえないし、

その作者の「きせき」には「蹟」のような整然と横線が並んだ字がふさわしい。

――この発見のおかげかどうかはわからないが、私は今、本を読むことができる。

(付言するなら、実は「現われる」という書き方も誤りというわけではない、

 ということを最近になって知った。 )

 

大人になって、例えば、「希薄」の「希」は「稀」の代用であることを知った。

どちらを使ってもいいのであれば、

やはり「稀薄」か「希薄」かの選択には、

書き手の言葉に対する感覚が反映されていそうだ。

たとえ「稀」という字を知らなくて「希薄」と書いているだけでも、

それはそれで、その人の今までの言語体験が反映されているのだろう。

「稀薄」という表記をする人は、「本来の形」にこだわる人なのか、

それとも「希」に「うすい」という意味を持たせたくない人なのか、

あるいは「稀」という字の形が好きな人なのか。

「希薄」を用いる人は、読みやすさを考えて難しい字を使わないようにしたのか、

手書きだから画数が多い字を書きたくなかったのか、

「のぎへん」が嫌いなのか。

 

今の私は漢字の運営能力をかなり機械にゆだねてしまった。

今さら手書きの生活に戻ることはできないだろう。

それは少し寂しいことではあるけれど、

仕事をするにしても、友人と休日の予定を決めるにしても、

ケータイ、スマホ、PCを使わないと始まらない。

だから、せめてこういう文章を書くときくらい、

「たてもの」を「建て物」と書かないのはなぜだろうとか、

「寂しい」と「淋しい」の違いは何だろうとか、

そういうのんきな懊悩を抱いていたいと思っている

 

  君が聴く歌の歌詞には「泪」って書いてあるから僕もそう書く

瓜角

<<株式会社あいげん社>> 〒101-0062 東京都千代田区神田駿河台3-3-5 小林ビル TEL:03-5280-7197 FAX:03-5280-6020