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スタッフblog「季の風」

 
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恥の多いしりとり
2016-10-24
太宰の有名な作品ではないが、生きていくうえで恥ずかしい瞬間はたくさんある。

満員電車のなかでこけたとき、雨の日のコンビニで足を滑らせたとき、

したり顔を人に指摘されたとき、フランス語の授業で発音を何度も直されたとき、

上京して初めて標準語を口にしたとき、一人称を変えたことがバレたとき、

誰にも言っていないのに彼女ができたことをクラスの全員が知っていたとき、

間違えて小学校の担任の先生を「お母さん」と呼んでしまったとき、

――恥ずかしいことは思い出すだけで恥ずかしい。

 

本当に恥の多い生涯を送ってきたわけだが、

私が今まででいちばん多く感じたのは「しりとり」の恥ずかしさだ。

私は恥ずかしくて「しりとり」ができない。

正直、「しりとり」と発音することさえ少し恥ずかしい。

「しりとり」→「りんご」→「ゴリラ」→「ラッパ」→……

文脈から切り離された「ゴリラ」や「ラッパ」の音があまりにも幼稚に響いて、

それを発言している私自身をふわふわさせる。

私は今「ラッパ」の後に「パンダ」と言おうとしている。

「パ」のつく言葉といえば真っ先に「パンダ」を思い浮かべる私のことを、

周りはどういうふうに思うのだろうか。

「パスタ」のほうがいいだろうか。

いや、普段「スパゲティ」「マカロニ」で通してきた私が

「パスタ」なんてキザすぎて言えるはずがない。

「パントリー」なんておしゃれすぎて何のことかよく知らないし、

「パソコン」ではしりとりが終わってしまう。

パ、パ……、「パスポート」! これならちょうどいい!

――こんなことを考えて、すぐに言葉が出なくなる。

というより、頭にある言葉を口に出すのが恥ずかしくなる。

私が口に出していい言葉は、

私のキャラクターに合ったものだけであるような気がして、

言葉と自分の距離感を測ろうとして、混乱してしまう。

私は「パスタ」よりは「スパゲティ」「マカロニ」と言うキャラであり、

旅行は好きだから「パスポート」と口にしてもいいが、

家は狭いから「パントリー」と口にしないキャラである。

文脈を気にせずに「ラッパ」と言えるほど子供ではないが、

音楽はかじっていたから

トランペットやその他の金管楽器のことを

「ラッパ」と言うことはあるキャラである。

 

「役割語」というほどのものではないが、

それぞれの言葉はそれを口に出す人のイメージを伴っている。

そして、それぞれのイメージを持つ言葉を使ってきた末に

「私」というキャラクターは生まれた。

私のボキャブラリーは私のキャラクターそのものだといっても

過言ではないかもしれない。

だから言葉選びには気をつけてきた。

いや、というよりも、屈託してきたといったほうがいい。

最近、もう少し、言葉遣いに冒険があったほうがよかったかもしれない

と思うようになった。

せめて、しりとりがすぐ終わらない程度には。

それは、青臭い言い方をすれば、自分の殻を破ることになるのかもしれない。

 

  しりとりで「鱚」はずるいよ 明らかに僕に「鋤」って言わせる罠だ

瓜角

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